「トイレの流し方」にバリアフリー目線を
トイレを流し忘れる。マナーとしては最低です。
しかし、高齢者施設では特に珍しいことではありません。
私は毎週高齢者デイサービスで介護のお手伝いをしていますが、トイレの流し忘れは頻繁に起こります。
もちろん、ちゃんと流す方もいますが、流し忘れているケースは非常に多いです。
高齢者のマナーが悪いのでしょうか?
そんなことはありません。多くの場合、トイレの設備が「心身の機能が衰えた高齢者」に合っていないのです。「トイレの流し方」に関するバリアフリーが全く進んでいないことが原因です。
今回は、高齢者がトイレを流し忘れてしまう4つの原因と、それを解決するアイデアについて考察します。
◆動画解説はコチラ↓
1つ目の原因
写真はトレイを流すためのレバーです。どこにでもある一般的なレバーです。
高齢者がトイレを流し忘れる原因はこのレバーにあります。
ここでクイズです。
このレバーのどこに問題があるのでしょうか?
答えは、「レバーの位置が悪い」です。
多くのレバーは、便座に座った際、人の後ろに位置します。この状態でレバーに手が届く人は殆どいません。
なので、レバーを操作するには、
・一度立ち上がり、
・身体をくるっと回転させ、
・前屈みになり
・レバーを引く
そんな動作が必要になります。
しかし、足腰の機能が衰え、手すりに掴まっていないと安定して立っていられない高齢者にその動作を強いる方が無理なのです。
レバーの位置が悪い。これが1つめの原因です。
2つ目の原因
写真は「1つ目の原因」と同じレバーです。実は、2つ目の原因もこのレバーにあります。
ここでクイズです。
このレバーのどこに問題があるのでしょうか?
答えは、「レバーが重たい」です。
レバーを操作してトイレを流す際、指先でレバーをくるっと回転させますね。
若い人にとっては簡単なことです。
しかし、指先にチカラが入らない高齢者が多くいます。
高齢者はペットボトルの蓋を空けることが苦手。そんな話を聞いたことがある人は多いと思います。このブログでも「高齢者は手先のチカラが衰えているので味噌汁の蓋を取るのが苦手」という記事を書いたことがあります。
なので、このレバーも高齢者にとっては重いです。
重いからトイレを流したくても流せない。
これが2つ目の原因です。
3つ目の原因
下の写真をご覧ください。
この写真のトイレには「高齢者がトイレを流し忘れる原因(或いは、流したくても流せない原因)」があります。
このトイレのどこに、その原因があるのでしょうか?
答えは「レバーが隠れていて見つけにくい。さらには、レバーの操作が難しい。」です。
下はこのトイレの拡大写真です。
トイレのレバーが、ポールで隠れていますね。
高齢者施設のトイレには「背もたれ」が設置されていることがあります。
身体機能の衰えが原因で、トイレに座っても上半身を支えられない高齢者がいます。
その人のために背もたれが設置されているのですが、これを設置するためのポールがレバーを隠してしまっているのです。
なので、レバーが見つからず、トイレを流せない。仮にレバーを見つけたとしてもトイレを流すことが難しいのです。
下の写真は私が実際にレバーを操作している写真なのですが、
上から手を伸ばしても、下から手を伸ばしても、手首を曲げながらレバーを操作しなければならないのです。
これで高齢者にトイレを流せと言うのはもう無理です。
もちろん、このようなケースはそれ程多くありませんが、「トイレの流し方に関するバリアフリー意識」が如何に低いか。この事例をみれば一目瞭然です。
4つ目の原因
下の写真は、非常に有名な某公共施設のトイレです。
この写真のトイレには「高齢者がトイレを流し忘れる原因(或いは、流したくても流せない原因)」があります。
このトイレのどこに、その原因があるのでしょうか?
答えは「流し方が難しい」です。
下はこのトイレの拡大写真です。
いわゆる「手かざしトイレ」というものです。
レバーを回転させて流すのではなく、センサーに手を近づけるとトレイが流れる仕組みです。
この手かざしトイレ。私も最初は戸惑いました。どうすれば流すことができるのか? わからないのです。
私に限らず、これに戸惑った人は多くいます。
なので、判断能力や認知能力が衰えた高齢者が戸惑うことは必然なのです。
このような難しい流し方が4つ目の原因です。
流し忘れを解決するアイデア
<注釈>
流し忘れを防止するアイデアとして真っ先に思い浮かぶのは「自動的に流れるトイレ」です。
もちろん、これは効果的な方法なのですが、高齢者施設では高齢者の便や尿の様子を観察することが多々あり、また自分のタイミングで流したいという欲求も根強いので、ここでは「自動的に流れるトイレ」は取り上げません。
流し忘れを防止するにはどうすれか?
これを考えるには、上記4つの問題点を逆に考えればいいのです。
・レバーの位置(後ろに位置する)が悪い→前にする
・レバーが重い→軽くする
・レバーが隠れている→目立つ位置にする
・流し方が難しい→簡単にする
これを総合すると下の写真になります。
高齢者が便座に座った際に、高齢者の「目の前」に「大きなレバー」を設置するのです。
これなら、
・すぐに見つけられる
・馴染みのあるレバーなので流し方が簡単
・レバーが大きいのでレバー先端を軽くスイングできる
すなわち、「トイレの流し方のバリアフリー」を実現できるのです。
バリアフリーは皆の暮らしを便利にする(ユニバーサルデザイン)
高齢者や障害者に使いやすものは、誰にとっても使いやすい。
このレバーもそうです。
バリアフリー目線に立って商品を開発すれば、誰もが暮らしやすい社会が実現するのです。
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