【バリアフリー特許の世界 〜立ち上がり補助具編〜】
記事の概要
・高齢者のための「立ち上がり補助具」が特許出願されている。
・この補助具を高齢者・障害者が持つバリアフリー目線で見直すと、荒削りな部分(意外な欠点)が浮かび上がり、そこから新しいアイデアが生まれる。
・その欠点とは何か? そこから生まれるアイデアとは?
今日のテーマは「立ち上がり補助具」です。
足腰が衰えた高齢者は「立ち上がり」が苦手です。
一旦、椅子に座ってしまうと立ち上がるのに苦労します。テーブルに手を置いて「よっこらしょ」と足を踏ん張っても、身体を持ち上げるチカラが足りず、立ち上がることができません。
そこで、高齢者の立ち上がりを補助する器具が発明され、特許出願されています。
「立ち上がり補助具」の発明とは
この補助具について説明します。
- まず、下図(左)のように、椅子の座面と座布団(クッション)との間にアームを挟み込む。
- 次に、下図(中央)のように、そのアームの前方に、ハンドルバーを斜めに差し込む。
- 下図(右)のように、ハンドルバーを前方に傾けると、それに伴ってアームが高齢者のお尻を持ち上げる。手のチカラが少々弱くても「テコの原理」を利用できるので、お尻が持ち上がる。
- ハンドルバーは着脱式なので、座っているときは取り外すことができ、邪魔にならない。
なかなかのグッドアイデアです(出願番号2015-51389/出願人は個人)。
でも、これを私が研修を受けていた介護施設で使えるかと言えば、きっと使えないと思います。この補助具をバリアフリー目線でみると問題が生じるからです。さて、その問題とはなんでしょう?
答えは「転倒の危険がある」です。
高齢者がこれを利用して立ち上がった場合、勢い余って前方に転倒するおそれがあります。
足腰が丈夫な人なら、勢いがついてもバランスを保つことができますが、そもそもこれを利用する人は、足腰が衰えた人なので危険です。
前方にテーブルがあればテーブルに手を付けば転倒を防止できるケースもあると思いますが、ハンドルバーを前に倒した後、瞬時に手をテーブルに移動できるとは思えません。
私は数え切れないほど高齢者の立ち上がりの介助を行いましたが、お尻を持ち上げる介助をする際は、必ず一方の腕で高齢者の前方を支えながらお尻を持ち上げてあげます。それ程、立ち上がりの際は危険なのです。
バリアフリーアドバイス
そこで、ハンドルバーを手で押すのではなく、お腹や胸で押すようにすれば安全性が増します。
ハンドルバーを平らな形状にして上半身(お腹や胸)にあて、上半身を前屈みにする。このようにすれば、前屈みになるだけでお尻が持ち上がり、且つ、両手がフリーなので勢い余ったときはテーブルを押さえることが可能なので転倒しない。
ハンドルバーを少し改良するだけで、大幅に安全性が増します。
これでもまだまだ課題は残りますが、高齢者や介護ヘルパーに実際に使ってもらい、意見やアイデアを集めれば、非常に安全で便利な「立ち上がり補助具」になるかもしれません。
バリアフリー目線によるブルーオーシャン戦略
上記のとおり、この補助具はまだまだ荒削りなアイデアですが、高齢者や介護ヘルパーに実際に使ってもらい、意見やアイデアを集めれば実用化も夢ではありません。特に、一人住まいの高齢者は、立ち上がりを1人で行わなければならないので、実用化すれば喜ばれ、他社にはない独自の商品を開発できます。
しかも、介護を中心とした高齢者ビジネスの需要は増加する一方。日本のみならずアメリカや中国などでも、これから本格的な超高齢化が進みます。まさにブルーオーシャン市場です。
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