【一歩足りないバリアフリー 〜洗濯機編〜】
記事の概要
・洗濯機のボタンをバリアフリー目線で見直すと、意外な欠点が浮かび上がり、そこから新しいアイデア生まれる。
・その欠点とは? そのアイデアとは?
・適切なボタンのデザインについて考察します。
今日のテーマは洗濯機です。
最近はバリアフリーへの理解が進み、バリアフリーに配慮した商品が増えてきています。企業にとっても巨大な市場規模のシニアマーケットは魅力的な市場です。
下の写真はバリアフリーに配慮した洗濯機のボタンです。ボタンの下に点字があり、視覚障害者でも操作できるよう配慮されています。とても素晴らしいことです。
でも、バリアフリー目線で見た場合、この洗濯機のボタンは「もう一歩足りないバリアフリー」なのです。さて、どこが一歩足りないのでしょう?
答えは「視覚障害者のうち、点字を読むことができる人は10%しかいない。だから殆どの視覚障害者はこの洗濯機を操作できない」です。
この識字率10%という数字がどこまで正しいか分かりませんが、視覚障害者の点字識字率が圧倒的に低いことは確かです。
視覚障害者と一口に言っても、生まれつき視覚に障害がある人(先天性)もいれば、大人になってから視覚に障害を持つようになった人(後天性)もいます。
視覚障害者のうちの殆どの人は後天性の人達です。成人してから点字を勉強するのは大変なので、殆どの人は点字を読むことができません。なので、この洗濯機を操作できないのです。
バリアフリー目線による商品開発ヒント
そこで、ボタンの形を各々異なる形にしましょう。
例えば、「予約」のボタンを五角形、「コース」のボタンを丸、「風乾燥」のボタンを四角にする。そんな感じで、各々のボタンの形状を変えれば、点字を読めない視覚障害者でも操作できます。
せっかく点字を付けたのですから、あと一歩進めてボタンの形状を変えるだけで良いのです。
バリアフリーはすべての人を幸せにする(ユニバーサルデザイン)
ボタンの形を変えると、健常者にとっても便利です。
「工程」「コース」「風乾燥」などの字を読んで識別するより、形を見てボタンを識別したほうが直感的で分かりやすいからです。
お子さんに洗濯のやり方を教える際も、「”工程ボタン”を押して」と教えるよりも、「三角のボタンを押して」と言ったほうが簡単に伝わります。誰にも分かりやすいユニバーサルデザインのボタンです。
バリアフリー目線によるブルーオーシャン戦略
このように、高齢者・障害者・介護ヘルパーなどの意見をしっかりと聞き取り、もう一歩踏み込んだバリアフリーを実現すれば、他の追随を許さない洗濯機になります。
視覚障害の日常から
私の知り合いの視覚障害者から聞いた話です。
その方は笑いながら、こう言っていました。
「僕にとってコンビニのおにぎりはロシアンルーレットなのです」
コンビニのおにぎりって、同じ形をしていますよね。
なので、食べてみないと「それが鮭なのか、ツナなのか、昆布なのか」が分からないそうです。同じ形で困ることって実は多いのです。
バリアフリー目線の大切さ
私は小学校でバリアフリーの授業を実施しています。バリアフリー商品を工作したり、バリアフリーアイデアを考えることを通して、バリアフリーの大切さを伝えています。
授業で「おにぎりが同じ形で困る」という話をすると、大抵の児童は「点字を付けよう!」とアイデアを提案します。もちろん、それは素晴らしいことなのですが、点字の識字率の低さからすると効果的なアイデアとは言えません。
この授業はバリアフリーの大切さを学ぶ授業なので、「効果が低いアイデアだ」とは言いませんが、社会全体に「視覚障害への配慮=点字をつける」という固定観念が出来上がっているようです。
これは小学校の子供達だけでなく、大人の世界でも同様です。ですから、上の写真のようにボタンの形が同じになるのです。点字をつけるだけでなく、もう一歩進めてボタンの形を変えると、すべての人が使いやすくなります。
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